2003年に出版された秀逸な「きのこの本」と雑感

笠原弘邦 

 ここ10年ばかり、毎年きのこ関係の書籍が多数出版されています。(小生の蔵書を数えると、19902000年の間に出版された書籍は60冊) このような“きのこブーム”がおきたのは、中高年者の登山ブームやTVでよく放映される田舎暮らし番組や無農薬栽培食品ブームと同列のものなのか。 ともかく悪いことではないので、ご同慶の至りではあります。
 しかし最近は、これと言った斬新な書籍の出版が無いのを残念に思っておりましたところ、今年は「アッ!これだ」と言えるきのこの本が出版されたので、感想かたがた同好の士の皆さんに是非ご紹介したいと思い、この記事を投稿した次第であります。

(1)「詳細図鑑 きのこの見分け方」
      大海 秀典著、講談社、2003.9.10出版、152p、2,000円
 きのこ図鑑は既に食傷気味になる程、出版されており、我が国では1929年に出版された「川村清一著・原色版日本菌類図説」を最初として、その数、優に50冊を下らないし、更に1975年に出版された「村田義一著・北海道のきのこと山菜」と「片岡佐太郎著・いわての山菜ときのこ」をその端緒として、各県別のきのこ図鑑がその後、全国で50冊は出版されており、そのほか、きのこ狩りガイドブックの類や、きのこ料理関係の書籍等は優に50冊は超えています。 その他学術専門書は別として、一般向けのきのこ栽培関係の書籍等を加えると、総数200冊は超えているのが実情であります。
 そこで、図鑑でありますが、最新の知見のものは共に2001年出版の「幼菌の会編・きのこ図鑑」(収録数700種)と、「日本菌学会東北支部編・東北のきのこ」(収録数375種)が秀でていますが、一般的記述として、成菌の形態写真1枚と解説文から成っているのが大方です。 これでは、余程きのこに精通している、きのこマニアか専門家でないと理解し難いものであり、まして、きのこの形態(大きさ、形、色など)は、その生えている場所の環境により微妙に異なっており、1枚の写真と採取した実物とが違っている場合が、ほとんどであると言っても過言ではないと思います。 素人にとって、きのこの同定は、図鑑(特に生態写真)だけでは正確に出来ないというのは、当然といえましょう。
 それから掲載されている種の数の問題もあります。 多く載っているに越した事はないのではありますが、プロ及びセミプロではない一般人には何百種ものきのこを鑑別することは不可能ですし、まず採取することは有り得ないでしょう。 ましてや、現在日本で確認されている種類だけでも、約3,000種もあるのですから、一番掲載種の多い「山渓フィールドブックスIきのこ」(収録数1,155種)(但し原色日本新菌類図鑑T・U保育社は除く)をもってしても、自分が採取したきのこが、その図鑑に載っているという保障は無いのです。
 従って、きのこに関心を持ち始めた素人にも、又かなりの経験を積んでいるセミプロのきのこ名人にも役立つ図鑑というのは、@掲載種数は多くなくても普段きのこ採りで見かけるものが大体載っている。 A形態(特に傘)の変化やひだの色の変化の具合及び各部の形態写真が多数載っている。 Bできれば俗名索引がついている。の三点に尽きるのではないかと思います。
 この本はこの三点を満たした好著と言えましょう。 @については、美味しい食菌66種と間違いやすい毒菌7種が収録。 Aについては、きのこの傘の表裏、柄、ひだなどの色や形状とその変化、きのこの幼・成・老の姿などが掲載。Bは付いている。

(2)「きのこ博物館」
      根田 仁 著、八坂書房、2003.9.10出版、238P、2,000円
 この本は、きのこ物知り博士になれる本である。 著者の根田氏は、「きのこの100不思議」(日本林業技術協会編、東京書籍出版)の中のNo.27と62項の記述者であり、週刊朝日百科「キノコの世界」のキシメジ科を担当している第一線の菌類学者です。 孫引きも多いが、ともかく氏の読書量の多さとその博覧強記には驚かされますし、一般のきのこ図鑑では得られない色々なきのこの話が満載で、読んでいてとても面白い内容です。是非一読をお勧めしたい一本であります。 なおその本の参考文献の最初に記載されてある、有岡利幸著「松茸」(法政大学出版局、1997年出版、288P、2,700円)もそれに優るとも劣らない力作の書籍でありますので、歴史、民俗に興味のある方にお勧めしたい一冊です。
(3)「きのこの細道」
      本郷 次雄著、トンボ出版、2003.5.10出版、234P、1,800円
(4)「きのこアラカルト」
      福岡 久雄著、裳華房、2003.8.25出版、138P、1,600円
 この2冊は共にエッセイで、(3)は大御所本郷先生の著書で、きのこ談義と氏の半生記と言った内容で、現在の我が国菌学界第一人者としての氏の足跡と先達の話が聞けて楽しい。 (4)は有機化学者である著者のきのこ四方山話でありますが、第4章の毒きのこ中毒の話は実例が出ていて面白く、最終章にあるきのこの本あれこれは、8頁にわたって全てのジャンルの81点の書籍が紹介されており参考になります。
 以上で4点の新刊書をご紹介しましたが、最後に私も所属しております「いわきキノコ同好会」に関係あるお二人の書籍を紹介して終りとします。

(5)「野生のキノコ」
      小川 勇勝著、平電子印刷所、2002.12.10出版、302P、3,000円
  この本は副題に「17年間の山歩きで探し当てたきのこの生息地と写真撮影の記録」とある通り、図鑑でありながらラテン語の学名の記載も無い、全くのアマチュアきのこ愛好家である著者の体験談が主体の図鑑で、読んでいて大変好感が持たれる本であります。 氏の温かな人柄と、きのこに夢中になって山を歩き回った17年間の様子が良く分り、何か他人事ではない感じがしました。 掲載きのこは142種でありますが、ドクワカフサタケ(仮称)の中毒実体験記はおもしろい。 ともかく図鑑らしくない図鑑で一読をお勧めしたい一冊であります。
(6)「カメレオンの悲しみ」
      いわき民報社編集、斎藤 孝遺稿集、2003.11.23出版、148P、非売品
この書籍も一アマチュアきのこ愛好家の幼少時代から平成15年1月に66才の若さで亡くなられるまでの、きのこ採集体験記であります。 著者は地元いわき市では名の知られた方で、その文筆の才は秀でたものがあり、多くの新聞や雑誌に投稿されており、また日本菌学会東北支部会員として前出の「東北のキノコ」の執筆者の一人にもなっております。 掲載きのこ数は37種と少ないのですが、その簡潔明瞭な文章は、説明文はかくあるべきという見本といえましょう。
 以上で、私が2003年に目にした中で、これはと思った新刊書を紹介したわけですが、世はきのこブーム真っ盛り。 今後も益々人気上昇することでしょうが、願わくば、里に山野にきのこが無くならず、どんどん出てきてくれることを祈って拙文を終えたいと思います。

                                                             2003.12.23記)

図@ 詳細図鑑きのこの見分け方      図A きのこ博物館 図B きのこの細道 図C 野生のきのこ