生ごみ堆肥を利用した樹病治療の試み

齋藤 紀 

   珍しいキノコの発見とか紹介の話でなくて申訳ありませんが、たまにはキノコによる病害やその対処法などの記事も良いのではないかと思い書くことにしました。

   今回の観察や記録は、我が家の一隅に生えているゲッケイジュ(月桂樹、ローレル)の樹に何やらサルノコシカケの小さな塊を見つけた時に始ります。

   初めはその成長を見守る事を楽しんでおりましたが、やがて樹勢にも影響してきたので、今度は菌害を防ぐことを考慮せざるを得なくなりました。 菌害の対処には薬剤の使用が普通なのでしょうが、この試みでは堆肥を使うという環境に優しい方法を取りました。 堆肥中の拮抗微生物の働きに推測的に期待したことと、生ごみ堆肥を自家製作していたことがきっかけでした。 もしこの方法が菌害防除に有効となれば、生ごみ堆肥の新しい利用法としてもリサイクルの上からも意義のあることになります。

  以下にこれまでの経過を述べることになりますが、元々報告を書こうとも思っていなかったので、今となっては記憶を辿ってのかなり大雑把な記録でしかないことをお断りしておきます。 また、試験に使える樹はこの一本しかなかったので、残念ながら対照実験をおくことは出来ませんでした。

1、樹の根元にコフキサルノコシカケ育つ

狭い庭ですが、西北隅に自然に生えたこのローレルは、現在、樹高約3m、根元直径は約7pです。 数年前に地際から15pぐらいのところに豆粒大の白い塊を発見、サルノコシカケが身近に生えてくれたことに喜び、そのうち同定できることを楽しみにしておりました。 一年後には小さいながら半円形の子実体が、その翌年は厚みを加えて数pの形に成熟、チョコレート色の胞子を散布するまでに育ち、コフキサルノコシカケであることが判明しました。 普段は山で見るこのキノコを目の当りにしてご満悦、そのままにして置こうとの意識ばかりでした。

しかしキノコにばかり浮かれていられませんでした。樹の調子が少しおかしいのです。 葉の色、つやが悪くなり表面には黒いスス病のような徴候が現れてきました。こうなると、いや応なしに樹の健康管理について考えざるを得ません。 ここで次の三案から、一つを選んで進めることにしました。

第一は今まで通り自然のままにしておく、第二には樹のためにサルノコシカケ菌の徹底撲滅を図る、第三に樹の健康が保てれば菌の寄生も許す、この中から第三の方法で今後に望むことに決めました。 その主な理由は、一般に健全に見える樹でも大なり小なり菌に侵されている実態からですが、菌も生かしてキノコにも触れていたい欲望もあったからです。

2、手さぐりの治療ーー生ごみ堆肥の登場

なにもマニュアルはありません、手探りです。 まず、折角の子実体を取り去ると、小面積だけ菌体のついた淡色の材が現れます。 この部分に次のように堆肥を盛って覆い隠すだけの簡単な方法です。

  まずは、僅かな露出部分が隠れるように自家製の生ごみ堆肥(市販や農家の堆肥とは材料や製法も異なるので正式の堆肥ではない)で根元部を半周ほど蓋います。 その後は特に乾燥した際の二三度の散水と自然減少ぶんの堆肥の補給だけで、放置しました。 一年後に堆肥を取除いてみると2pほどのサルノコシカケに再び成長していました。 いくぶんは期待していた堆肥の抑制効果が、殆んど認められなかったのには、あて外れと矢張りとの思いが相半ばしました。

負け惜しみではありませんが、樹皮を剥がないと堆肥の働きが悪いだろうとの懸念は初めからありました。 しかし最初は、一番単純な方法で行うのが常道で、段階を踏むようにしたわけです。 次いで二の矢に賭ける作業が始ります。

3、今度は抑制作用があらわれるーー有望?

さて、その二の矢は患部周辺の樹皮を剥いで、堆肥を密着させようとの試みです。再び子実体を取り去ってから山ナイフや鉈で、大体ですが付着部の周りから、その下方の地際まで表皮と皮層の上面を削り取ります。 次いでこれまでと同じように堆肥を盛って経過を見守ります。 菌がどの組織まで入り込んでいるかは不明ですが、堆肥と接触する面積が格段に広がったわけです。

テキスト ボックス: 写真1.生ごみ堆肥で成長抑制をうけるコフキサルノコシカケの子実体、周縁に黒い隈どりのように見える帯線は同菌によって形成されたもの。  一年後に、大豆ぐらいの大きさの塊に留まっているのを見て、今度は有望と明るくなりました。 樹の方も葉の色、つやが回復してきたようにみえます。 このまま不足の堆肥をたし、さらに継続しました。 そして翌年には、写真1(10/1,2003)で見るように128oほどの、いんげん豆大にはなりましたが、前回の樹皮を剥がないで行った時より、成長が押さえられたと判定されます。 また形も正常でないことも、抑制の影響でしょうか。 このような結果から堆肥には、何らか菌の抑制する作用があるのではないか、との一応の結論です。 一方、葉のスス病様の黒色菌糸もいつの間にか消え、緑色も鮮やかに生気を取り戻しました。

  
それでは、上記のような堆肥の示す抑制作用の仕組みは何かと問われても、それなりの実験をしなければ解答できません。 ただ、推測してみると、まずは堆肥中の微生物(拮抗微生物)の働きが考えられます。 また、あんがい堆肥の肥料分が樹に活力をもたらし、菌の活動を抑えたのかも知れません。 この解明は、すべて今後の試験に俣なければなりません。

4、今後どうする?

  一例だけの、しかも家庭で行った試みでは説得力は弱いでしょうから、この先は実験例数を増やすことと、精度を上げることが裏付けるしかないでしょう。 しかし、残念ながら一般の家庭には適当な罹病樹などは求め難いのです。

  サクラの西公園(青葉区)には遊ばないで、梅雨期に訪ねるネクラ男と笑われますが、ここではコフキサルノコシカケやベッコウタケの侵犯に堪えている大木、老木の姿が痛々しく見えます。 薬剤を浴びながらでも、生き長らえ子実体を形成している生命力には脱帽ですが、なによりも環境にやさしい方法でサクラをらくにしてやれないかと思うことしきりです。

○ 生ごみ堆肥について

  この実験に使用した自家製堆肥について触れる必要があると思いますが、なにしろ省力的な製法で、品質とも標準的なものではありません。 読者の中にきちんと作っておられる方が少なくないと思います。 私の生ごみリサイクルは市政にも啓蒙を受け退職を機に、簡略的ではあるが始めることにしました。 この作業は野外のコンポスト容器内での分解と、外してから土を混ぜての分解・成熟の2過程からなります。

  庭に130gの容器を置き、台所からの生ごみのほか、しばしば雑草や落葉等をも入れます。 発酵促進のためには米糠やときには鶏糞等を適宜くわえ、時々は混合してほぼ半年間発酵・分解させます。 じゅうぶん手をかけたときは65℃位まで発熱しますが、これには藁を材料に加えることが有効です。 どうしても嫌気的分解になりがちで、こん虫、多くは小・中の双し目の幼虫の発生を来たします。 この際は石灰窒素や消石灰等で対処しますが、完全には抑えられませんでした。

  次の過程では、容器を取り去り、土を加えて混ぜ半年以上、好気的条件下でよく分解・成熟させます。 出来の悪いときは一年も置くことがありました。 満足できる品質ではありませんが、一坪園芸に使ってもそれなりの効き目は認められました。

  堆肥作りも長くなると飽きて怠けてくるものですが、日常できるリサイクルや環境への努めであると自ら認めています。 ところで、もっと樹病の治療に適した堆肥作りについても考えたいのですが、このへんで筆を擱かないと取り留めなくなりますので、おわりにします。 どんなご教授・助言・批判でも歓迎ですので、頂ければ大変有難く思います。