イカサマツタケ(融合マツタケ)について

                                                         木村 栄一

 「イカサマツタケ」とはいったい何物か?。マツタケとの名前からきのこであろうとの察しはつくが、図鑑を見ても見当たらないし…。それもそのはず、イカサマツタケとは最近マスコミ等で話題となった新種()のきのこであり、正式学名(和名)ではありませんので図鑑に載っている訳がないのであります。この「イカサマツタケ」なるきのこの名前は、某有名コラムニストが命名した造語名称で、「いかさま」なマツタケをもじった名前なのであります。一時期民放のみならず、天下のNHKでさえも取り上げて世間を騒がせた、シイタケとマツタケの細胞融合によりマツタケの人工栽培に成功したと言う、忘れた頃に繰り返される「詐欺マツタケ」の総称なのであります。

 皆様ご存知の通り、きのこには大きく2種類のグループがありまして、シイタケなどのように枯れ木から発生する「腐生菌」の仲間と、マツタケに代表される生きた植物の根と共生して、土から発生する「菌根菌」とのグループに分かれます。腐生菌の仲間のきのこは、比較的容易に人工栽培が可能なのでありますが、菌根菌の仲間のきのこは、そう簡単に人工栽培が出来るものではないのです。だからこそ、マツタケやホンシメジ(スーパーで販売している○○ホンシメジは偽者)は、庶民にとっては高嶺の花なのであります。そもそも「種」どころか「科」の異なるきのこ同士は、人為的な細胞融合処理を施したとしても、完全な形での融合細胞の獲得は不可能なのです。ましてや今回のような、マツタケの菌糸にシイタケ菌糸を混ぜて「融合」させたなどとは、ど素人の発想で、イカサマもいいところです。このような「マツタケ商法」と称される詐欺商法は、過去にも何回か横行しておりまして、10〜15年周期で流行しているように思われます。ご存知の方もおられるかもしれませんが、平成3年頃にも話題となり、伊勢丹や三越などの有名デパートでもギフト商品などとして取り扱われた経緯があるくらいなのです。しかし、今回の融合マツタケ騒動は、嘘をつかないNHKが取り上げたことで、今まで以上に反響が大きく、善良な国民は「本当なんだ」と信じてしまった感があります。

 専門家であれば、わざわざDNA鑑定などしなくとも菌糸の伸長速度や顕微鏡で菌糸を観察するだけで、簡単に区別がつく、誠にお粗末なきのこなのでありますが、日本のマスコミはどうしてこうも「マツタケ」神話に弱いのか、不思議でなりません。今回の事件は、公的機関で専門家が調査した結果、@菌糸伸長が早過ぎること。A菌糸体にクランプコネクションを有すること。Bマツタケではなくてシイタケの香りがすること。等でマツタケの形をしたシイタケであることが判明し、商品表示法違反との判断から行政上の指導が行われたことで、何とか大量流通にまでは至らないで済んだようであります。事の結末が判明した段階で、さすがNHKは「融合マツタケ」が「シイタケ」であったことを後日訂正報道したようでありますが、話題性のみを追求する民放は訂正報道など一切なく、無責任もはなはだしいものです。参考までにこの手の「マツタケ」で満足していただけるのであれば、シイタケ育種の過程でかなりの頻度で発現して来ますので、大量に、しかも安価で供給が可能です。ただし、香りは当然人工合成した「マツタケフレーバー」で良ければの話ですが…。ほとんど本物のマツタケの食体験がなくなりつつある現在においては、意外に本物と思って食する人が実は多いのかもしれませんがね…?。少なくともきのこ会の皆さんはいい加減なマスコミ報道などに惑わされることなく、くれぐれも「擬いもの」にはごまかされないよう十分に注意してください。

 「ニセマツタケ」に関連した話題として、中国からの輸入マツタケについて一言触れたいと思います。最近のDNA解析等の研究結果からして、中国、韓国、北朝鮮などのいずれの東アジア産マツタケは、すべて日本産マツタケと同一種との鑑定結果がでております。ただし、マツタケは収穫後2〜3日で香りが消失してしまうことから、輸送に長時間を有するこれら外国からの輸入マツタケはどうしても香りが弱くなり、商品としての評価は低くなってしまうのです。日本人にとって「香り」が命であるマツタケは、たとえ本物と言われても、やはり国産ものにはかなわないようです。参考までに、中国四川省のチベット高原に発生するマツタケは、常緑コナラ林に発生しているとのことで、DNA鑑定においては「バカマツタケ(Tricholoma  bakamatsutake)」とは異なり、日本のマツタケ(Tricholoma matsutake)と何ら変わらないとのことです。専門家の話によれば、マツタケはもともと広葉樹とマツ類を宿主としていた可能性が高く、広葉樹を宿主とする原始型のマツタケは、中国西部の四川省や雲南省の高地に隔離され、一部の系統は中国東北部や日本で「バカマツタケ」や「ニセマツタケ(Tricholoma fulvocastaneum)」に分化して行ったのではないかとのことです。一度は広葉樹に発生するバカマツタケやニセマツタケではない本物の「元祖マツタケ」を見てみたいものですが、チベットの3,000m級の広葉樹林帯に発生するとのことですので、そこまで辿り着くまでが大変なようですが・・・。