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木村 栄一 「トリュフ」と言えばフランス料理の高級きのこ。キャビアやフォアグラと並ぶ世界の3大珍味とも言われる高級食材きのこです。この世界的な高級きのこが、当地仙台においてもようやく発見(?)された模様ですので(現在専門家による鑑定中でありますが、会誌が発行される頃には判明していることでしょう。)、アジアで発見されたトリュフについて記してみたいと思います。 トリュフは、子のう菌類のセイヨウショウロタケ科の一部とイモタケ科の一部の地下性菌類(外生菌根菌)の総称で、本場は何と言ってもフランスはプロヴァンス。南フランスに位置するプロヴァンス地方は、セザンヌやゴッホの名画でもなじみの世界的にも有名な景勝地です。リオンからこのプロヴァンスへ通じる道の途中にフランス有数のトリュフ(黒トリュフ:Tuber melanosporum)の産地があり、11月から3月までの間は、毎週トリュフの市が立つことで知られております。ところが、この世界的な高級きのこはフランスやイタリアなどのヨーロッパ以外にもインドや中国などのアジアでも発見されており(アジア産の黒トリュフはインドで最初に発見)、今では中国の雲南省が世界一の黒トリュフの生産国となっているのです。日本でもトリュフは発見されておりまして、1977年に京都府の広葉樹林で見つかった黒トリュフは、「イボセイヨウショウロ:Tuber indicum(インド産の意味)」と命名され、アジアでは中国よりも早く見つかっているのです。ただし、アジアの黒トリュフは、厳密には子のう胞子の形態が明らかに異なることから、ヨーロッパ産とは異なるものとされており、どうやらトリュフにはヨーロッパクループとアジアグループとが存在するようです。日本における最近のトリュフ発見のニュースは、2001年12月10日に中国地方の秋吉台で、2002年のやはり10月には福島県の郡山市や白河市などでも見つかっております。また同じ頃、岩手県の岩泉町においてもトリュフが見つかったことが新聞などで報じられております。福島県の表郷村で発見された黒トリュフは、直径が何と12cm、重さ900g以上の大きなもので、日本で見つかったトリュフとしては最大級のものです。日本の黒トリュフは中国産の変種とされておりますが、外殻皮の突起が尖っており、特有の香りも弱いものの、外見的には中国産よりはむしろフランス産黒トリュフに近いと言われております。 そもそもトリュフは、石灰岩土壌の広葉樹のカシやナラなどの根に寄生する地下性型の外生菌根菌で、イノシシなどにより掘り出されなければなかなか発見されないものなのですが、これまでの報告によれば、どうやら日本に自生する黒トリュフは、地上近くに子実体を形成するタイプが多いようで、中国産とは異なり発見は意外と容易なのかもしれません。トリュフには白と黒の2種類があり、フランスでは「黒トリュフ(Tuber melanosporum)」が、またイタリアでは「白トリュフ(Tuber magnatum)」が好まれ、特に白トリュフ(Tuber magnatum)は世界で最も高価なきのことして知られております。数年前にこの世界最高級きのこが福島県でも見つかったと報道され、マスコミの話題となりましたが、子のう胞子の形態が異なることから、残念ながら本物の白トリュフではないとのことでした。南と北の両隣県でトリュフが発見されていることから、宮城県にもきっとトリュフは生息しているものと思っていたのですが、やっと待望の宮城県産黒トリュフ(現段階では未同定ですが…)にめぐり逢うことが出来ました。詳しい発生場所の林相や土壌環境は残念ながら分かりませんが、これを機会に皆さんもご自分の「臭覚」を頼りに探してみてはいかがでしょうか。その気になって探せば、案外簡単に見つかるのかもしれませんよ。因みに、中国の黒トリュフはヨーロッパのトリュフ採取地の土壌環境とは異なり、広葉樹ではなしにマツ林に発生し、しかも土壌は石灰岩質のカルスト地形ですが、土壌pHは酸性なのだそうです。宮城県ではこのような条件を満たす所と言ったら、果たしてどの場所が……。 ところで、トリュフ探しに「豚」を使うことは有名ですが、なぜ「雄」ではなく「雌」豚が活躍するのか、ご存知でしょうか? それは、トリュフには雄の豚が交尾期に分泌する「性フェロモン」に似ている「臭い」が含まれているからなのだそうです。ただし、豚はせっかく見つけたトリュフを食べてしまうことから、本場フランスでは今ではトリュフ探しの訓練を受けた犬が活躍しているのです。トリュフは「香り」が命とのことですが、どうやら日本人には相性が悪いようで、「黒いダイヤモンド」とまで呼ばれる世界的な高級きのこであっても、フランス人にとっては「この世で最高の芳香」と感じるようなのですが、日本人には「蒸れた靴の中の臭い」などと喩えられ、どうも悪臭・汚臭としか感じれらないようです。トリュフ好きの人には、醤油に似た甘い芳香とのことですが、実際、きのこ会に持ち込まれた黒トリュフ(と思われるきのこ)は確かに香りは弱かったものの、鼻を突くようなアンモニア臭が感じられ、食欲をそそるような香りではありませんでした。外国人におけるマツタケ臭の酷評と同様、人種により「香り」に対する感じ方は様々なようです。人工栽培で大量に食することが出来るようになれば、「刷り込み」によりフランスやイタリア人のようにトリュフの香りを美味しいと感じるようになるのでしょうかね…?。トリュフはマツタケと同様菌根性のきのこではありますが、マツタケほどに人工栽培は難しくないとのことで、本来、黒トリュフが自生しないオーストラリアやアメリカなどでは、子のう胞子の懸濁液を散布するという方法で既に人工栽培に成功しているとのことです。日本においてもいずれは人工栽培が可能となり、世界的な珍味が日常的に食べられるようになる日がきっと来るかもしれません。その時には、きっとトリュフの香りをイタリア人のように「至福の香り」と感じられるようになれることでしょう。
イボセイヨウショウロ:Tuber indicum Cooke et Massee(山と渓谷社「日本のきのこ」より)
Tuber melanosporum の子のう胞子顕微鏡、電顕写真 (Callot G. 編「La truffe, la terre, la vie 」1999. INRA. より
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